高崎市の子どもは、高崎で守る
2025年10月1日、高崎市が独自に設置した児童相談所「ぱすてる」が開所しました。
“ぱすてる”という愛称には、子どもたちが自分らしい色で未来を描いていけるように――そんな願いが込められています。
児童相談所というと、「虐待対応の場所」「怖い場所」というイメージを持つ人も少なくありません。しかし今回、中山直美所長のお話をうかがう中で見えてきたのは、子どもと家庭に寄り添い、地域とともに支え合う“子育ての拠点”としての姿でした。
木の温もりに包まれた、やさしい空間
館内は、木の温もりを感じるやわらかな空間となっていました。手すりや表示板には曲線が取り入れられ、初めて訪れる子どもや保護者も少しでも安心できるよう、随所に工夫が施されています。
建物を囲む壁面には、地元の小・中学生が描いた壁画も設置されていました。「夢と希望」「自然とともに」をテーマに描かれた色鮮やかな作品は、施設全体をあたたかな雰囲気で包み込んでいます。
また、受付には大きな水槽が置かれていました。この水槽は、地元企業の協力によって設置されたものだそうです。メンテナンスや餌やりまで無償で行われており、「地域の皆さんに応援してもらえることがありがたい」と話してくださいました。
相談に訪れた子どもたちが、水槽の前で立ち止まり、夢中で魚を眺める姿も多く見られるそうです。
「生き物がいると癒されますね」
そう語る中山所長の表情からは、子どもたちにとって“安心できる場所”でありたいという願いが伝わってきました。
忘れられない出来事が、原点にある
中山所長は、長年にわたり子ども家庭分野に携わってきました。その原点には、忘れられない出来事があるといいます。
こども家庭課に異動した頃、全国で幼い子どもの虐待死事件が相次ぎ、「なぜ救えなかったのか」「もっと早く気づけなかったのか」という思いが強く残ったそうです。
当時、高崎市には虐待対応を専門的に行う部署がありませんでした。
「高崎の子どもに、同じような苦しみを抱えている子はいないのか」
そうした危機感から、市として支援体制を整えていく動きが始まったといいます。中山所長自身も、場所探しから立ち上げ準備まで奔走し、“相談しやすい場所”をつくるために力を尽くしてきました。その積み重ねが、現在の「ぱすてる」へとつながっています。
「 高崎で生まれてよかった」と思える未来へ
中山所長が繰り返し話していたのは、子どもたちの未来についてでした。
「子どもが大きくなったとき、高崎で生まれてよかったって思ってもらえたら」
その言葉が、とても印象に残っています。
子どもたちには、夢を諦めずに育ってほしい。
そのためには、親だけではなく、地域や学校、さまざまな大人との関わりが必要だといいます。現代は、親以外の大人と関わる機会が減っています。だからこそ、児童相談所で出会う職員や地域の大人との関わりが、「この人に出会えてよかった」と思える経験になれば――
そんな願いを持ちながら、日々子どもたちと向き合っているそうです。
支援を必要としている人ほど、SOSを出せない
取材の中で、中山所長が何度も口にしていた言葉があります。
「一番支援を必要としている人ほど、SOSを出せない」
追い詰められている人ほど、「助けて」と言葉にすることが難しくなってしまう。
だからこそ、「大変だって言っていい」「困ったら助けてって言っていい」
そう伝え続けたいと話します。
それは、保護者だけでなく、子どもたち自身にも向けられた言葉でした。
「高校生くらいになれば、自分で相談に来る子もいます」
電話でもいい。立ち寄るだけでもいい。SNSでもいい。
誰かにつながることが大切なのだといいます。
「子ども自身が相談してきても大丈夫。我慢しなくていいんです」
児童相談所は、“怖い場所”ではなく、困ったときに頼っていい場所でありたい。その想いが強く伝わってきました。
「 監視」ではなく、「つなぐ」支援
児童相談所に対して、「子どもを連れていく場所」というイメージを持つ人も少なくありません。
しかし中山所長は、「監視ではなく、困っている家庭とつながることが大切なんです」と話します。
例えば、地域の中で感じる“小さな違和感”が、支援につながるきっかけになることもあります。
・夜遅くまで子どもだけで遊んでいる
・家の外に出されているように見える
・親の叱り方が少し気になる
そんな“小さな気づき”が、支援につながる入口になることもあります。
虐待かどうかを判断する必要はありません。「ちょっと心配だな」そう感じたときに、誰かにつなげること。それが、地域の見守る力なのだそうです。
「子どもは一人では生きていけない。必ず誰かの支えが必要なんです」という言葉が心に残りました。
発達相談と、子育ての孤立
実際に寄せられる相談で多いのは、発達や療育に関するものだそうです。
言葉の遅れ、落ち着きのなさ、集団生活への不安――
「こんなことで相談していいのかな」と思う段階で相談してほしいと、中山所長は話します。必要に応じて、学校や医療、保健、福祉とも連携しながら、一緒に考えていくそうです。
背景には、子育ての孤立があります。かつては近所や親族とのつながりの中で自然に支え合えていたことも、今は家庭だけで抱え込みやすくなっています。
「助けを求めることができる人は、まだいいんです。難しいのは、声を上げられない人にどうアプローチするか」
その言葉からは、支援の難しさと、深い優しさの両方が伝わってきました。

