卒業後もつながるための居場所として
『子どもたちは、本気で「やりたい」と思えたら、自分で動ける力を持っています。だからこそ大事なのは、そのときにどう動けばいいかという“手立て”と、“人とのつながり”を卒業までに渡しておくことだと思っています。』
わせがく高等学校では、地域での探究活動などを通して、「自分でテーマを決め、人に聞きに行き、まとめて発表する」経験を重ねます。
『電話でアポイントを取ることひとつとっても、苦手な子が多いんです。でも、大人になって相談機関につながるときも、最初の一歩は電話から始まることが多い。だからこそ、高校のうちにそうした“道具”を一緒に練習しておきたいんです。』
サポートは高校3年生の3月で終わり…ではありません。
『卒業してからでも、保護者の方を含めていつでも相談してください、とお伝えしています。わせがくは、進路や生活の相談を受けて、必要に応じてジョブカフェや若者サポートステーションなど、次のサポート先につなぐ“居場所”でありたいと思っています。』
ただし、ずっと学校だけが抱え込むのではなく、目安として「25歳くらいまで」をひとつのラインにして、地域のサポート機関へバトンを渡していくそうです。
『家庭も含めて一緒に考え、サポートの糸が途中で切れてしまわないようにすること。
それが、「続けていける」ために学校ができる大事な役割だと思っています。』
「聴く」から始まる
教員として心がけているのは、『とにかく“聴く”ことですね。答えはみんな、心の中に持っています。その子の中にあるものを、安心して出せるようにすることが大事だと思っています。』
中には、問いかけてから答えが返ってくるまでに10分近くかかる生徒もいます。
『そういうときは待ちます。“時間と場を共有する”こと自体が、信頼関係をつくるには大切です。』
『先生たちには、「三つの“きく”」――耳で聴くこと、心を向けて聴くこと、身体の向きを相手に向けて聴くこと――を意識してもらっています。
子どもが相談に来たときはパソコンに向かう手をいったん止める。どうしても手が離せないときは、「画面は見ているけれど、心はこっちに向いているよ」と伝えたうえで、きちんと相づちを返します。子どもは“大人が本当に聴いているか”にとても敏感だからです。』
家庭でも使える“時間の工夫”もあります。『「ちょっと待って」ではなく、「10秒待ってね」「30秒だけ待ってね」と具体的に伝えると、子どもも待ちやすくなりますし、約束を守ることで信頼も生まれます。』
『先生の側から心を開くことも大切です。自分の失敗談や、うまくいかなかった経験をあえて話してみる。“先生も人なんだ”と伝わると、子どもも少しずつ本音を出してくれるようになります。』
『子どもは“小さな大人”ではありません。大人の成功パターンを押しつけるのではなく、子どものペースとやり方に合わせて、“聴くこと・待つこと”を大事にしたいですね。』
「好き」と「学び」から、道は伸びていく
卒業後の進路は、大学進学、一般就職、福祉サービスの利用など、本当にさまざまです。
『大事なのは“有名大学かどうか”ではなく、その学びを通してその子の人生がどう変わっていくか。どこで、何を学ぶのがその子に合っているかを一緒に考えています。』
AIも活用しながら授業を行っています。『今は、答えはすぐ手に入ります。でも、その答えが本当に正しいのか、自分なりに考えて確かめる力が大切です。』
数学なら「犬小屋の屋根をつくるとき」、社会なら「授業料や奨学金、選挙や法律が自分の生活にどう影響するか」――学ぶ意味を、できるだけ具体的な暮らしと結びつけて伝えています。
一人ひとりの「好き」を、将来へのエネルギーとして大切にしているのも、わせがく高等学校らしさです。
たとえば、イラストを描き続けてデジタルアートの道を見つけた生徒、音楽やアイドルが大好きで、番組制作やステージの裏方を目指した生徒もいます。
『子どもたちは、好きなものに対しては驚くほど深く学び続けます。その“好き”をどう生かせるか、一緒に考えていくのが大人の役割だと思っています。』
そして、こう続けます。『夢は1人では育めません。だからこそ、伴走する大人として、一緒に夢を育んでいきたいんです。』
「ここじゃなくても大丈夫」と思えるために
「今の学校が、この子には合っていないかもしれない」と感じることは、決して珍しくありません。
『小学校で合わなかった子も、中学校で人間関係が変われば、もう一度スタートを切れます。中学校でうまくいかなかった子も、高校に行けば“過去のこと”としてやり直せることが多いんです。高校生であれば、“転学”という選択肢もあります。心が折れてしまう前に、次の道を一緒に考えてほしいですね。』
知らず知らずのうちに“大人側の期待”が子どもを苦しめてしまうこともあります。
『学校に通えないのは、子どもがダメだからではなく、“今の環境と合っていないだけ”ということも多いんです。高校も、学び方も、一つではありません。』
丸山先生は、わせがく高等学校だけでなく「群馬県私立通信制高校等連絡協議会」の事務局として、ほかの通信制高校ともつながっています。
『わせがくが合わなければ、別の学校を紹介することもあります。“この学校しかない”と考えず、その子に合う選択肢を一緒に探せたらと思っています。』
さらに、福祉・行政・NPOなどが横につながる「ぐんまの子ども・若者支援ネットワーク」にも関わっています。
『どこか一つにつながれば、そこからぐるっと別のサポートにつながっていけるようなネットワークをつくりたいんです。誰か一人につながることができれば、そこから必ず道は広がります。』
『“今の学校だけがすべてじゃない”という視点を、まず大人が持ってあげてください。一人で抱え込まずに、学校でも、地域のサポートでも、通信制高校でも、どこか一カ所でいいので、まずはつながってみてほしい。そこから、きっと次の一歩が見えてきます。』
お話をうかがって
お話を伺って心に残ったのは、「子どもと保護者が、ひとりで抱え込まなくていいように」という静かなメッセージでした。
今の学校が合うときもあれば、うまくかみ合わない時期もある――それでも、「そこで終わり」ではなく、学び方や関わり方を“選び直すことができる”という視点は、大人にとっても心強いものです。
迷いや不安を感じたときこそ、学校の先生や地域の大人、専門機関など、身近な誰か一人に相談してみてほしい。
その小さな一歩が、「大丈夫、一緒に考えてくれる人がいる」と思える、次の一歩につながっていくのだと感じました。
聞き手 令和7年度高崎市PTA連合会 情報委員会
取 材 2025年10月15日

