安全基地の大切さ。
子どもが健やかに成長するためには、“安全基地”が欠かせません。ここに居れば大丈夫、自分は守られている――そう感じられるからこそ、安心して外の世界に挑戦し、失敗してもまた戻ってこられるのです。
一方で、その基地が壊れると、子どもは「行き場がない」と感じ、不登校や心身の不調につながることもあります。寄り添う大人に大切なのは、子どもの安心の場所を侵さず、「ここなら大丈夫」と思える場を一緒に守ることです。
この「安全基地」は、実は大人にも必要です。シャンパンタワーのように、上のグラス(親の心)が満たされて初めて、子どもや家族、地域へと幸せが広がります。親が自分を犠牲にして尽くしてもうまくいかないのは、そのためです。
忙しい日々の中でほんの10分、自分の好きな飲み物を味わう――そんな小さな「自分を満たす習慣」が、子どもに優しく接する力を育てます。
「犠牲」ではなく「満たす」こと。
大人が笑顔でいることこそ、子どもにとって最大の安心であり、力強い居場所となります。
安心できる教室が、子どもの挑戦を後押しする。
「心とは何か?」――古くから多くの学者が探ってきました。加藤さんが大切にしているのは、心を「N(ネガティブ)」と「P(ポジティブ)」の二つに分けて考えることです。
Nの心は、不安や恐怖から始まり、不信や怒りへとつながる負の連鎖を呼び込みます。子どもが「学校が不安」と感じると、「怖い」「信じられない」へと発展し、大人の「大丈夫」という声も届きにくくなります。
一方、Pの心は感謝から始まります。「ありがとう」と思えると安心が生まれ、信頼や自信が育ち、挑戦へとつながるのです。教室で子どもが安心して手を挙げられるのは、難しい問題が解けるからではなく、「間違えても笑われない」という信頼があるからです。
同じように、大人もNの渦に巻き込まれることがあります。そんな時に役立つのが「ラベリング」――「今の自分は不安のNにいる」と気づくこと。そうすることで、心を少し客観的に見つめ、次の一歩を選び直す余裕が生まれます。
真っ暗闇の中でどうにもならないとき、一本の懐中電灯が解決してくれます。――「ありがとう」「安心」「信頼」というPの心はその光です。家庭も学校も、その光をともせる場でありたいですね。
安心して話せる場があるということ。
加藤さんは、長年小学校の教員として子どもたちと向き合ってきました。退職を迎える少し前、森の中に「どんぐり亭」という小屋を建てたことが転機となります。あまりに自然が美しく安らぐ場所であったことから、「ここを不登校の子どもや悩みを抱える保護者の方が安心して話せる場にしたい」と考え、カウンセリングの場として開放しました。
現在は前橋市内にオフィスを構え、より多くの方の相談を受けています。
また、公認心理師の資格を活かし、スクールカウンセラーとして小中学校で活動を続けています。5年目を迎えた今、不登校や子育ての悩みに寄り添いながら、子どもや保護者が「安心して話せる場づくり」に力を注いでいます。
五感で感じる、今を生きる子どもたち。
どんぐり亭が森の中に建てられたのは、「自然の力を借りて子どもを支えたい」という思いからでした。人工的な空間ではなかなか味わえない、360度から届く自然の気配――鳥の声や草木の匂い、足元の感触や風の音。そうした五感を刺激する体験は、子どもたちに「生きている実感」を与えてくれます。森に行くと子どもたちがいきいきとしてくるのはそのためだと加藤さんは語ります。
実際に、不登校だったある子が森で自生するハッカの葉を見つけ、「いい匂い!」と笑顔を見せたことがあったそうです。そのとき加藤さんは「その葉っぱに毎朝ありがとうと言ってから嗅いでごらん。きっと元気が出るよ」と伝えたそうです。するとその子は少しずつ学校へ向かう力を取り戻していったのです。
自然の中での体験は、カウンセラーの言葉以上に心を癒し、生きる力を与えてくれる。だからこそ、どんぐり亭では「今、この瞬間」を大切にしています。
一方で現代社会は「コスパ」「タイパ」といった効率を重視しがちです。
「効率化を求めると、生き急ぐ心が先走ってしまう」
月を見上げて科学的な説明をするのも大事。でも「うさぎがお餅をついているね」と子どもと一緒に空想する時間の方が、何十年たっても心に残ります。
どんぐり亭が大切にしているのは、まさにライブ感のある時間。同じ瞬間は二度と戻らないからこそ、今ここにいることを感じ、味わう。その積み重ねが「生きる心の土台」につながっていくのです。


